村上春樹と柴田元幸の『翻訳夜話』(2000年、文藝春秋)を、読みました。
私は、麗澤大学で、第2学期、「翻訳を念頭においた」英語の授業を担当しています。授業では、実際に、英語と日本語の翻訳をさせてみます。さらに、課題として、翻訳に関する本を最低2冊読み、その感想を発表をして、レポートを書かせることにしました。
そして、学生への本の紹介を兼ねて、私自身、週に1冊、翻訳に関する本を読み、授業で紹介していこうと決めました。今回は、その第1冊目です。
村上春樹は、私の大好きな小説家。柴田元幸は、東京大学の准教授。2人とも、アメリカの文学を中心に、たくさんの訳書があります。また柴田は、村上の訳文チェックを、長年やっているそうです。
この本は、東京大学の柴田教室、翻訳学校の生徒、さらに6人の若手翻訳家という、異なる聴衆(参加者)に向けて行った、3回のフォーラムの記録です。2人の翻訳の一例も、はいっています。
「夜話」とあるように、話の内容はいずれも肩の凝らない翻訳談義です。ただ、翻訳の楽しさや大変さが、いろいろな例とともに語られ、興味深いものでした。
村上は、「翻訳者にとっていちばん大事なのは偏見のある愛情」、柴田は、「召使のようにひたすら主人の声に耳を澄ます」と、語っています。
いちばん印象に残ったのは、村上の次の言葉。「自分がこれだと思ったテキストを追求していけば、あれこれむずかしいことを持ち出さなくても、やっぱりそこには何かあるし、その翻訳を読む人も何かしら感じるものがあると思うんです」
私も、死ぬまでに2冊、感銘を受けたカナダの演劇教育の先生の本を、日本語に訳したいなあと思いました。