『カナダ研究年報』(第37号)

投稿者: | 2017年11月11日

日本カナダ学会の紀要、『カナダ研究年報』の第37号(2017年)を、読みました。めずらしく、通読しました。

興味深かったのは、荒木隆人による論文、「ライシテと『ケベック価値憲章』に関する考察-歴史文化的遺産と宗教的シンボルをめぐる論争を通じてー」。

「ライシテ」とは、「フランスにおける、政教分離、良心と信教の自由、国家の中立性、モラルの対等性などの原則、政策」です。

フランス語文化が強く維持されている、カナダのケベック州で、「開かれたライシテ」という思想が、どのように広まっているか、「ケベック憲章」(ケベック州議会で提案されたものの、廃案となる)をめぐる議論から、分析しています。

カナダのある州で、公務員が勤務中に職場において「あからさまに」宗教的シンボル(ユダヤ教徒のキッパ、イスラム教徒のターバンやブルカ、キリスト教徒に関係する「大きな」十字架など)を着用することを禁じるか否かという問題は、日本から見ればそれほど大事なことかとも思います。

ただ、その分析から、「政治と宗教」、「多様性と公平性」、「ケベック州の特殊性」といったテーマが、浮かびあがってきます。たぶん、これが研究者の仕事なのでしょう。

それにしても、日本にいると、カナダの情報が、なかなか入ってきません。そのために、こういう学会があるのだろうなと思いました。