デイヴィッド・ブース(David Booth)先生逝去のニュースを、確認しました。なにか心に大きな穴があいたかんじです。
ブース先生は、カナダ・トロント大学・オンタリオ教育研究所(Ontario Institute for Studies in Education of the University of Toronto)の名誉教授でした。芸術教育、とくに演劇やリテラシー(読み書き)の教育が専門でした。
初等学校の演劇教員、教育委員会指導主事、大学と大学院の教授として、長年にわたって、学校における演劇教育とリテラシー教育の実践と研究に従事してきました。
物語と演劇を結びつけた、ストーリードラマ(物語に基づいて行われる即興的なロールプレイング)を提唱しました。30冊以上の著書があります。そのうちの1冊は、日本語に訳されています。
デイヴィッド・ブース著 中川吉晴他訳 2006 『ストーリードラマ』 新評論
私がブース先生と会ったのは、1992年。いまからほぼ25年前です。はじめて見たときは、『鏡の国のアリス』の挿絵として描かれた、ハンプティ・ダンプティみたいだと思いました。
ブース先生も私も、イギリスのダラム大学(University of Durham)のギャビン・ボルトン(Gavin Bolton)先生のもとで、演劇教育を学んだということもあり、とてもかわいがってもらいました。
ブース先生の大学院の授業は、議論を中心とした、ユーモアにあふれた即興劇みたいで、とても面白く、スリリングでした。
また、カナダでの私の最初の誕生日。大学院のクラスメートの演劇の研究授業を見学したあと、ブース先生の「今日は、健太郎の誕生日だから、みんなで、『Happy Birthday to You』を歌おう」という呼びかけで、体育館に集まった子どもたちやみんなからお祝いしてもらったのは、とてもよい思い出です。
それから、ブース先生の自宅でのクリスマス・パーティに招待されたこともあります。「お寿司を用意するから」というので、「まさか握るのか」と思ったら、日本食レストランからのテイクアウトでした。
私が帰国してからも、「論文の1章を書きあげるごとに、添付ファイルで送ってきなさい。私が、君の論文審査委員会の主査だ」と、励ましてもらいました。
私にとって、数少ないメンター(精神的指導者)のひとりでした。
ブース先生のもとで、博士論文を書きあげるという夢は叶わなかったけれど、たくさんのことを教えてもらい、たくさんの時間をいっしょに過ごせたことに、感謝します。